頑張って事業計画書を作成し、それに基づいて経営しているつもりなのに、予期せぬトラブルが起こったと感じることがあります。この場合、最も多いトラブルの原因は、事業計画書に盛り込む内容について”漏れ”があったり、その内容に対する考察が不足したことで生じる”抜け”にあります。

ビジネスとは、ヒト・モノ・カネを増やす活動

そもそも、ビジネスとは、ヒト・モノ・カネの経営資源を運用して増やしていく活動です。そのため、ヒト・モノ・カネに関する事柄は網羅しておく必要があり、そのヒト・モノ・カネの使い方について考察しておかなければなりません。

経営者という立場になれば、資金繰りは忘れたくても忘れられない事柄であり、その資金を生み出す主力商品の売れ行きも強い関心を持つところです。しかし、モノを運用してカネを増やしてくれるヒトに対して関心が薄い経営者は多いようです。むしろ、主力商品の売れ行きが悪くて赤字経営になれば、カネを増やすどころか、ヒトがカネを減らすと感じるようになります。

この場合、事業戦略や商品戦略、営業戦略の設計が甘い、販売体制の仕組みやフローが確立されていない、従業員が頑張って仕事できる環境がない等々の問題を抱えていることがあります。わかりやすい例を挙げれば、お客様が買いたいと思う商品を販売していないのに、売れない原因を従業員だけに転嫁するようなことです。もちろん従業員の資質が不適切な場合もありますが、それならば営業マンが5名いれば、何名かは販売して実績をつくるはずです。仮に5名共に売上をつくれないのであれば、事業計画に基づく人災を疑うべきでしょう。

逆に、良い経営者になろうとして従業員に対して手厚く待遇し過ぎる場合もあります。ビジネスモデルが確立していない状況では、その手厚さはカネの減少を加速させるため倒産リスクが著しく高まります。その結果、本当に倒産してしまえば、従業員は手のひらを反して経営者の無能さを責める事態になります。これも甘い計画を立てた経営者による人災です。

いずれの場合も一概に言えることではありませんが、これら経営者はヒト・モノ・カネの一部分に関心があるだけであり、ビジネス全体に対して精緻な検討をした上で掌握していないのであり、事業計画書を作成しても漏れや抜けが多い内容で仕上がってしまうのです。特に、ヒトに関する事柄を蔑ろにして人災を起こす経営者が多い感じています。

人災を防ぐには網羅性と検討の深さが重要

新規ビジネスにおける事業計画書の漏れと抜けを防ぐためには、一般的な記載項目を網羅していくことが必要です。例えば、会社概要・事業コンセプト・ビジョン・市場分析・競合分析・事業戦略・商品戦略・ビジネスモデル・営業戦略・営業戦術・組織体制・人員計画・売上計画・仕入計画・経費計画・利益計画・資金繰り計画といった項目が挙げられます。

しかし、これら各項目について事業計画書にただ記載するだけでは不十分です。これら各項目に対して精緻に検討しておかなければ、有効な内容とは言えないからです。また、各項目は独立して存在しているものではなく、各項目同士の関連性があるため、その繋がりに矛盾がないことも大切です。そうでなければ、そのビジネスモデルは”仕組み”として機能しなくなります。

そして、この仕組みとしての機能を確認するためには業務フローチャートを書いておくことをお薦めします。業務フローチャートには、ヒト・モノ・カネ、そして情報の流れを詳しく書き出すため、ビジネスモデルの精緻な設計に役立ちます。また、各項目の記載内容との矛盾も業務フローチャートを介してチェックできるようになります。一般的に紹介される方法ではありませんが、堅実なビジネス設計ができるメリットがあります。

業務フローチャートまで作成するのは大変ですが、まずは前述した一般的な項目について網羅し、一つひとつ丁寧に検討するところから始めて、実際に書き出してみてください。何も書き出さない状態であれこれを思案しても、なかなか深く検討していけるものではありません。最初に書き出した事柄に対して、さらに検討した事項を書き足していくようなイメージで進めていくと自ずと精緻さが増していくはずです。そうすると最終的には業務フローチャートで精査しないと判断できない領域に達して、その必要性を実感してもらえるはずです。