これは事業計画書に限らない事柄ですが、「言葉」はこだわり過ぎるほど良いと思います。人は物事を考察する時、言葉を使って考えて、言葉を使って考えた結果をまとめていきます。そのため、選択された言葉には、それを記述した人の考えが投影されていると言えます。そのため、事業計画書で使われる「言葉」を見るだけで、考え抜いた結果がまとめられているのか否か、ある程度は窺うことができます。

言葉を軽んじた時に起こるトラブル

事業計画書において言葉を軽んじた事例として、いくつかパターンを挙げてみます。

  1. 伝えるべき実態と言葉が一致していない
  2. 選んだ言葉では、多様に解釈できて、一意とならない
  3. 同じ事柄に対して、複数の表記が乱立している
  4. 装飾的な説明が多過ぎて読みづらい
  5. 話の流れ、論理展開が崩壊している
  6. 誤字脱字があまりにも多い

この内、1~3番までは、言いたい事柄を正しく伝えづらい言葉選びをしているため事業計画書を読んでくれる第三者を誤解させる可能性が高いです。一方、4~6番は第三者の理解を邪魔したり、自社の事務能力が低いことを示すものとなっています。

1.伝えるべき実態と言葉が一致していない

起業家自身は、伝えるべき実態をわかっているはずですが、その実態が正しく伝わる言葉を使っていない事例はかなり多いです。その場合、実態を知らない第三者は、言葉を頼りにして起業家の言いたい事柄を理解しようとします。この時、言葉の意味から考えていくことになるため、言葉選びが正しくなければ、第三者に伝わる実態は間違ったものとなるのです。

簡略化して説明すると、ビジネスの実態はAだが、それを説明する言葉の意味はBである時、第三者はビジネスの実態をBと理解することになるのです。

この場合、どんなに素晴らしい新規事業のアイデアであっても、その素晴らしさが正しく伝わらないため協力者を得られないパターンがかなり多いと推察されます。そのため、アイデア段階で打ち切るか、もしくは強行して経営資源をただ食い潰して終わることが多いです。

2.選んだ言葉では、多様に解釈できて、一意とならない

ビジネスの実態を伝えるための言葉に対して、複数通りに解釈し得るものであれば、読んだ人それぞれが異なった解釈をすることになります。新規ビジネスのアイデアで脳内が一杯になっている起業家は、自分で書いた言葉から異なる解釈ができる可能性を考慮し難いのです。

簡略化して説明すると、ビジネスの実態はAだが、それを説明する言葉Bである時、その言葉BからはAの解釈だけでなく、Cの解釈やDの解釈もできる場合です。この時、ビジネスの実態をAと理解する人、Cと解釈する人、Dと解釈する人といった具合で理解した内容がバラバラになります。

この場合、食い違いが発生したまま打ち合わせ等が進んでいくため、具体的なモノ(商品など)が出来上がってくる段階でトラブルに直面することになります。具体的なモノができた段階になってからの軌道修正は、大きな損失に繋がることは言うまでもありません。なお、言葉を重んじて注意を払っておけば、仮に各自が異なる解釈をしていても、早い段階で食い違いに気付いて軌道修正できるはずです。

3.同じ事柄に対して、複数の表記が乱立している

商品の特徴を示す言葉として、事業計画書において、例えば「凄い!巧い!安い!」と、とあるページで書いたとします。しかし、別のページで同じ商品の特徴を示す時に「圧倒的な迫力で高品質、そして安い」と表記したとします。この時、起業家自身は両者ともに同じ事柄を説明したつもりであっても、第三者が同じ事柄と受け取らない可能性の方が高いと言えます。

一般的に「2.選んだ言葉では、多様に解釈できて、一意とならない」のような事態を回避するために、一つの文書内においては、一つの言葉が指す事柄は一つにします。逆を言えば、一つの事柄を説明する言葉は、一つに決めておくのです。

そのため、同じ事柄に対して表記方法が複数あれば、第三者はそれぞれ異なる事柄を説明しているのではないか?と考えて解釈することになるのです。一つひとつの言葉や言い回しに対して、毎回のように意味を解釈しなければならない事業計画書は、第三者に多大なストレスを与えることとなり、読むこと自体に疲れてしまい、評価どころではなくなります。

簡略化して説明すると、伝えたい事柄はAであり、それを説明する言葉としてBやCが存在している状態です。第三者は、最初に言葉Bを見て、それをAの意味と理解したと仮定します。次に、類似した言葉Cを見た時、Aと同じ意味だと感じても、意味が異なる可能性を捨てきれないため、念入りに確認しなければならないのです。

結果的に、BもCも、Aの事柄を指すとわかったとしても、いい加減な文章という印象を与えて嫌気を生じさせることになります。嫌気を生じた第三者が、その事業計画書に対して、前向きな姿勢で検討してくれないことは言うまでもありません。

4.装飾的な説明が多過ぎて読みづらい

事業計画書を少ないページでまとめたとしても、そこに込められた情報量は膨大であるため、しっかりと理解するためには相応の時間を費やします。だからこそ、事業計画書に記述する文章はなるべく簡潔にして、読み手である第三者のストレス軽減に配慮した方が良いと言えます。

しかしながら、起業家には新規事業に対する熱い思いがあり、その思いを伝えるためについつい説明に熱が入って文字数が増えていくものです。この思いは新規ビジネスを推進していくエネルギーとなるため大切なのですが、実は、文字だけで第三者に十分には伝わるものではありません。実際には、起業家自身がビジネスについて語る瞬間、その時の言葉選び、発する間と喋るリズム、視線、雰囲気などが大切であり、言葉数だけに左右されるものではありません。そのため、下手に説明を長くするだけの言葉ならば、第三者には装飾的な説明に過ぎず、ただ冗長な文章が続いているようにしか見えないのです。

また、装飾的な説明が増えれば増えるほど、第三者は読む箇所が増えるため、大事な要点を見失いやすくなります。つまり、起業家の思いよりも大切であろう、新規事業に関する要点が伝わりづらくなります。あまりに記述量の多い事業計画書は、ただそれだけで要点がまとまっていない印象があり、第三者から敬遠されるため、何も進展しないことが多いと思います。

5.話の流れ、論理展開が崩壊している

事業計画書における話の流れ、論理展開の崩壊には、大きく二種類あります。一つ目は、単純に論理的な文章を記述できていない場合です。これは国語力の問題であり、しっかりと整った論理的な文章でなければ、言いたい事柄は伝わりません。しかしながら、論理的な文章を書くことは意外と難しいため、日頃から語彙力を鍛えるしかありません。

二つ目は、事業計画に記述する戦略や戦術に合理性がない場合です。例えば、市場分析や競合分析の結果と、選択した事業戦略や営業戦略の間に合理的な繋がりがない時、どれだけ論理的に話の流れをつくろうとしても不可解な説明にしかならないのです。

もし、起業家自身がその不可解さに気付かないのであれば、そのまま事業展開していくこととなり、思惑通りに物事が進まない状況に直面した時、そこで初めて計画に落ち度があったと知ることになります。計画に落ち度があったと知っても、どこに落ち度があったのかを悟ることができなければ、やがてトラブルが生じて人災が大きくなっていきます。そして落ち度を悟る時にも、やはり合理性や論理的な思考が求められるため、起業家は理(ことわり)を重んじた方が良いだろうと思います。

6.誤字脱字があまりにも多い

事業計画書に誤字脱字が多ければ、おそらく、それを読んだ第三者は「事務能力が低い」と評価します。一般的には、書類を一通り書き上げた後、見直し作業や推敲して仕上げていくため、その過程において誤字脱字の大半が消えていくことになります。

そのため、誤字脱字が多い事業計画書は、そういった過程を経ることなく、一通り書き上げた段階で作成作業を終えたと思わざるを得ないのです。仮に、見直し作業や推敲して仕上げた事業計画書だったとしても、誤字脱字が多いのであれば、それこそ事務能力の低さを証明したことになります。

誤字脱字をちょっとしたケアレスミスと考える人は多いようですが、「作成した書類の見直し作業すら怠っている」という印象を与えることになり、事業計画書という重要な書類を軽んじてしまう姿勢等が露見することになります。

つまり、事業計画書に誤字脱字が多ければ、それだけで経営者の資質が欠けていると評価されてしまうこともあるのです。そして、読むに値しない事業計画書として扱われることも多いため、この場合も、何も進展しないことが多いと思います。

以上のように、言葉を蔑ろにした事業計画書と、それに起因する災いの事例を簡単にまとめてみました。意外と、自分が言葉を蔑ろにしていると気付いていない起業家志望の人はかなり多いため、ここで挙げた事例と照らし合わせてみて、ご自身の作成された事業計画書を客観視してみてください。事前に人災を防ぐ助けになるかもしれません。

なお、言葉を蔑ろにしていた人が、ある日突然に、言葉に対して注意深くなれることはありません。日々、根気強く「言葉の意味」と向き合って、考察を重ねていく訓練が必要となります。この記事が、その第一歩に繋がれば幸いです。