一見すると立派な事業計画書が作成されているように見えても、精査してみると事業戦略、商品戦略、営業戦略、営業戦術、売上計画等が非現実的な内容になっているパターンはかなり多いです。格好良く言えば、戦略や戦術が机上の空論になっているわけですが、実態としては次の2点に当てはまることが多いように感じます。

  1. 不勉強による合理性の欠落
  2. 資金の問題が起業家の目をくらませた結果
1.不勉強による合理性の欠落

ここで言う不勉強というは、見込客が存在するから売ることができるのであり、その見込客が商品を買う理由を満たすから売上に繋がるという道理を解明していないことであり、その道理を働かせるための戦略、戦術を選択できていないことです。

例えば、市場分析が甘くて見込客が存在していない商品を企画開発しても、買ってくれる人がいないため非現実的な商品戦略を展開したことになります。また、業績アップ間違いなし!と評判の集客サービスを利用しても、アプローチした見込客にその商品を買う理由がなければ買ってくれません。これらは戦略、戦術の選択に合理性がないため、事業計画書で語る売上計画は絵空事となってしまいます。

実際に合理性を欠いた集客サービスを強行した事例を何度か目の当たりにしましたが、ほとんど見込客からの反応は無く、そして「あの集客サービスは全く効果がない」と文句を言う結果になっていました。数多くある集客サービスの中で、わざわざ効果がないものを選択したのは起業家自身であることを忘れてはいけません。

さらに、これとは異なる不合理な事例もあり、選択した戦略や戦術が適切だったとしても、顧客の獲得率を大目に見積もったことで計画が破綻する場合です。集客サービスを提供する業者の宣伝文句では、最も良い獲得率を叩き出した実績値をアピールしていることが多く(完全な嘘の場合もある)、その獲得率を鵜呑みにすると、このような事態に陥ります。そのため、業者が主張する獲得率の真偽を確かめる手を打たなければなりません。このような真偽を確かめる行為をしないことも、不勉強であり、売上計画を破綻に追い込む原因となります。

2.資金の問題が起業家の目をくらませた結果

新規事業を始めた起業家が潤沢な資金を持っていることは稀であり、全財産の多くを投資することもあって、なるべく短期間で投資回収したい気持ちが少なからずあるはずです。そのため、資金に対するゆとりは少なく、新規事業が生み出す利益に対して期待がどんどん大きくなっていきます。

この”利益に対する期待”が強くなると、欲しい利益額だけに固執するようになり、”投資回収はビジネスモデルが出来上がって、会社が儲かった後になること”をいつしか忘れてしまうようです。このようなマインドに変わってしまった起業家は、とにかく先を急ぐ傾向が強くなり、自分で策定した戦略、戦術、計画が否定されることを嫌います。その結果、「1.不勉強による合理性の欠落」で挙げたパターンに簡単にハマり、悪い方向に事業計画をどんどん軌道修正していきます。

また、すぐに現金化することを重視するようになって、売上金の使い道が怪しくなってきたり、業績不振の責任を従業員に押し付けたり、本業とは関係のない儲け話にも関心を示すようになります。そうすると本業のビジネスモデル構築は疎かとなって、事業計画書は絵空事となっていきます。

これらは経営者の資質の問題でもありますが、多くは開業直後から起こる資金繰り計画の乱れから生じてきます。つまり、そもそも非現実的な事業計画を立てていたことに、根本的な問題が隠されているのですが、危機に直面している最中の起業家はなかなか気がつきません。

本業が安定して資金繰りの悩みが少なければ大抵の人は穏やかに経営できるものと思いますが、危機的状況まで悪化すれば誰でも前述したような変化が起こり得ます。だからこそ、特に新規事業においては万全を期して事業計画書を仕上げておくことが重要ではないかと感じるところです。

以上のような人災を回避するためには、作成した事業計画書を第三者に精査してもらった方が良いでしょう。顧問税理士やコンサルタントの意見を仰ぐことも一案ですが、計画の実行性について判断できる人は少ないはずです。

個人的にお薦めしたい相談相手は、(外部企業含めた)ビジネスパートナーや同業者、従業員であり、彼らはその業界特有の事情、成功事例、失敗事例に精通し、尚且つ各業務の実務まで把握している場合が多いです。そのため、その事業計画書の通りに物事が動いていくか否か、現実的な視点から助言してくれる貴重な存在だと感じます。