今回のテーマである、事業計画書の矛盾は「言葉を軽んずれば、言いたい事柄が伝わらない」の一つと言える問題点ですが、金融機関に対する重要度がかなり高いため個別の記事にしました。まず、「矛盾」についておさらいしておくと、事業計画書に書かれた二つの事柄について、理屈として辻褄が合わないことです。

よく耳にする言葉であるため、「矛盾していない事業計画書の作成は簡単、矛盾に気付かないなんてあり得ない」と思う人が多いようです。しかし、実際に事業計画書から矛盾を見つけ出して、さらに適切に修正していく作業は、かなり難しいものです。

矛盾が生じた事業計画書の主なパターン

事業計画書に矛盾が発生するパターンは多種多様にありますが、その中でも発生頻度が高いと思われるものを3つ取り上げました。それぞれ事例を挙げて説明しますが、これは代表例と考えて頂き、その意味を汲み取って参考にして頂ければ幸いです。

  1. 数値情報の整合性が確保できていない
  2. 戦略、戦術が事業コンセプトからズレている
  3. 戦略、戦術の中で辻褄の合わない事柄が発生している
1.数値情報の整合性が確保できていない

金融機関の担当者が最も確認しやすい矛盾として、数値情報が整合していないパターンがあります。代表例としては、事業計画書のテキスト部分で書いた売上目標と、売上計画の達成数値が整合していない場合です。

例えば、売上目標1,000万円と書いたのに、売上計画では売上高900万円を達成する内容になっていて1,000万円にならない状態です。このような事業計画書は、テキスト部分と売上計画に矛盾があって連動していないのであり、事業計画書の記載内容に対する信用度はゼロと言えます。その他、商品戦略の説明において販売価格1,000円と書いているのに、売上計画では1,200円で計上されている場合も同様です。

このような事業計画書を金融機関を提出しても、全く信用されないため資金調達は相当厳しいものとなります。数値情報の不整合を指摘してくれる担当者もいますが、「些細な間違いだから大目に見てくれた」と安心できるものではなく、ほとんどの場合は”あなたは事務能力が足りてませんよ”と教えてくれたに過ぎません。審査を突破し得る何らかの要因や事情がなければ、まともに読んでもらえないと覚悟しておきましょう。

2.戦略、戦術が事業コンセプトからズレている

事業コンセプトは、事業全体を統一的に貫く考え方や基準であるため、これからビジネスモデルを構築していく新規事業においては重要度が極めて高いものです。そして事業戦略、商品戦略、営業戦略、営業戦術、組織戦略等は、事業コンセプトの考え方や基準に従って、その枠組みの中で策定していくものです。つまり、合理的に戦略、戦術を策定していくと、事業計画書に書いた戦略、戦術と事業コンセプトには論理的な矛盾が発生しないのです。

しかしながら、実際には事業コンセプトからズレた戦略、戦術を計画している事例は山のように存在しています。事業コンセプトについて考え抜いていないために戦略、戦術と適合させづらい場合もありますが、当サイトの知る範囲では、事業コンセプトが表面的で建前となっており、戦略や戦術においては単純に儲かりそうなものを選択している場合が多いようです。

その結果、一時的には売上獲得に繋がっていきますが、必然的に事業コンセプトが形骸化します。その結果、一貫性のない商品・サービスの本領に対して魅力を感じるお客様が少なくなったり、何でもありの姿勢に対して不信感を募らせるお客様が増えていくことになります。そうなると、新規顧客が固定客になりづらいため、常に儲かりそうな集客方法等を無差別に選択していくことになって延々と新規顧客獲得に苦しむ事態に陥っていくことが多いようです。

そのような状態でもビジネスモデルを構築しておれば、ある程度は事業基盤が安定するかもしれません。しかし、事業コンセプトが形骸化している状態では、従業員にアイデアや知恵を求めたとしても、その考え方や基準がわからないため、やがて従業員は心身ともに疲弊していくことになります。その結果、さらなる成長を見込める状態ではなくなり、そのビジネスモデルの現状維持が厳しくなれば一気に倒産リスクが高ります。

3.戦略、戦術の中で辻褄の合わない事柄が発生している

事業戦略、商品戦略、営業戦略、営業戦術、組織戦略等がしっかり書かれているようで、実は、その戦略、戦術の中で矛盾が発生しているパターンもあります。各戦略、戦術は個別に考えていくことになりますが、その後、事業展開していく流れや、各戦略同士の関連性について精査していない場合に起こりやすいものです。

(あまり今時のビジネスではないですが)わかりやすい事例を挙げれば、営業戦術として訪問販売という手法を選択し、これを日本全国で展開する計画を立てたとします。普通に考えれば、日本各地に営業拠点や営業マンが必要になります。しかし、組織戦略等では営業拠点を設置するような話はなく、営業マンも一人しかいない計画を立てている場合です。つまり、組織戦略等から考えれば、その営業戦術は実現不可能な内容になっており、矛盾が生じていると言えるのです。

その他、事業戦略では競合企業と差別化した商品で固定客を増やしていく内容を書いておきながら、商品戦略には差別化のポイントが示されていなかったり、仮に示されていても顧客ニーズにマッチしておらず、実は差別化になっていないという場合があります。これも、言っている事柄とやろうとしている事柄に矛盾が生じていると言えます。

このような事業計画書に基づいて新規事業をスタートすれば、その矛盾点が災いしてトラブルが起こります。「事業展開を進めていく中でトラブルが起こっても、適時に問題解決して軌道修正すれば大丈夫」と考える起業家もいますが、このタイプの矛盾は根本的な問題であることが多く、容易く軌道修正できるとは限りません。おそらく、一時的に事業展開を中止して、改めて各戦略、戦術を考え直していくことになります。

ここではわかりやすく説明していますが、実際には念入りに考察しなければ発見できない矛盾が数多くあります。逆を言えば、念入りに記載内容について考察すれば矛盾点は発見できるため、新規事業をスタートする前に問題解決できるはずです。事業計画書を一通り作成し終えても、はやる気持ちを抑えて何度も見直し作業を繰り返してみてください。時にはジオラマをつくるようなイメージで、立体的にシミュレーションしてみるのも良い対策となります。