新規事業をはじめる時、事業コンセプトを蔑ろにしている起業家は、かなり多いように見受けます。そもそも、新規事業をはじめる起業家が「お金儲け」を重視していることは普通であり、資金も潤沢ではないため投資回収が最優先となって、建前としか思えない事業コンセプトについて念入りに考察する起業家は少ないようです。

一般的に「事業コンセプトは大切なもの」という認識が浸透しているため、多くの人は事業コンセプトを蔑ろにする経営者はダメだというレッテルを安易に貼りたがります。しかし、この「お金儲け」を重視する気持ちは、一度でも経営する立場を経験した人であれば誰もが共感するところでしょう。その理由は、資金が尽きれば、その瞬間にゲームオーバーであり、多額の負債を抱えるリスクがあるからです。

では、「事業コンセプトを蔑ろにしても良いのか?」と問われれば、答えはノーです。「お金儲け」を重視する気持ちはわかるけれども、だからこそ事業コンセプトを重視するべきだろう、と言うのが当サイトの意見です。

事業コンセプトとは

事業計画書に矛盾があれば、信用を失う-2.戦略、戦術が事業コンセプトからズレている」でも書きましたが、事業コンセプトは事業全体を統一的に貫く考え方や基準です。そして事業戦略、商品戦略、営業戦略、営業戦術、組織戦略等は、事業コンセプトの考え方や基準に従って、その枠組みの中で策定していきます。

そのため、事業コンセプトを蔑ろにすれば、事業戦略、商品戦略、営業戦略、営業戦術、組織戦略等の合理的な策定が難しくなり、各戦略、戦術において異なる視点が入り混じった状態となります。その結果、非現実的な事業計画書に仕上がったり、何でもありのビジネスになっていきます。

”非現実的な事業計画書”は、途中で破綻するリスクが高いため、おそらくビジネスモデル構築は困難となります。”何でもありのビジネス”は、自分がお客になったと仮定して、特定の企業が提供する色々な商品・サービスを想像してみてください。その中には、商品説明と品質が不一致な商品を売る企業、ヒット商品を表面的に真似ただけの二番煎じを発売していく企業、そこそこの品質でも高級品に見せかけて売る企業もあるのではないでしょうか?

このような商品は一時的に売れても、いずれ信用を失っていくため継続的な売上獲得は難しく、商品に対して魅力を感じる人も減っていくと思われます。その結果、価格競争で優位に立つしか選択肢がなくなり、儲からないビジネスになっていきます。つまり、事業コンセプトがしっかりしていない企業の商品は、見込客からの信用度が低く、欲しいと思わせる魅力が乏しくなる可能性が高いのです。

ちなみに”何でもありのビジネス”に関して断言を避けている理由は、事業コンセプトを蔑ろにしても上手くいく可能性はゼロではないからです。起業家の考え方がしっかりしており、それがブレることなく、あらゆる事柄について細やかに確認できるならば問題ないのです。

しかしながら、人の考え方はブレやすいため、また全ての事柄に目を配ることも難しいため、事業コンセプトを定義することでブレを自力で修正できる状態をつくり、仕事を分担できる体制をつくるのです。つまり、事業コンセプトは考え方や基準を明文化したものであり、関係者全てが同じ判断をできるようにする役割もあるのです。

事業コンセプトを蔑ろにすれば手間が増える理由

事業コンセプトによって考え方や基準を明文化しておくと、第三者にとっては、事業戦略、商品戦略、営業戦略、営業戦術、組織戦略等の意味や意義がわかりやすくなります。そのため、商品開発に協力してもらう外部企業やWEBサイト制作を依頼する外部企業があれば、成果物に求めている事柄が正しく伝わるメリットがあります。

逆を言えば、事業コンセプトがしっかりしていないと考え方や基準が不明確になるため、具体的な指示がない箇所については外部企業が自由に解釈することとなります。この自由な解釈によって、求めていた成果物に仕上がらないケースは多いです。すると、成果物に修正を加えることになりますが、その修正作業をする時も、考え方や基準が曖昧なままだと、何度も何度もやり直すことになって大きな手間となります。

これは従業員に対しても同様にであり、事業コンセプトによって考え方や基準を明示してなければ、具体的な指示がない事柄について、従業員各自がそれぞれ良いと思った方向で成果物をつくることになります。すると、効率化するために仕事を分担したはずが、各自のつくった成果物が色々な意味で噛み合わなくなる可能性があります。すると、やはり成果物に修正を加える手間が必要となります。

そして、起業家自身については、事業コンセプトによって考え方や基準を明文化しておらず、場当たり的に考え方や基準を変えていくようなケースがあります。この場合、従業員や外部企業はそれに振り回されることとなって、一向に成果物が仕上がらないまま時間が経過していきます。こうなると手間がかかるどころの問題ではなく、事業として危機な状況が近づいてくることになります。

よしんば、事業コンセプトを蔑ろにして”何でもありのビジネス”が上手くいったとしても、その起業家に振り回されて従業員が心身ともに疲弊しているならば、さらなる成長を目指せる健全な企業体質ではないと言えます。その段階になって事業コンセプトを重んじたとしても、それまでに積み上げてきた遺産が邪魔をするため、考え方を切り替えることも、仕事のやり方を変えることも簡単ではなくなります。つまり、想像もできないほど多大な手間と費用をかけて、企業体質の変革から取り組まなければならないのです。

もし、事業コンセプトがしっかりしておれば、常に考え方や基準に従って検討してもらえるため、的外れな成果物になることは少なくなります。その結果、無駄なコストが発生しなくなるため、計画通りに「お金儲け」に向かって行けるはずです。しかし、前述したような手間がかかる進め方をすれば、無駄なコストを支払うばかりでお金儲けから遠退いていきます。

さらに、多少のズレは修正しやすいため手間が少なくて済み、尚且つ、ズレの修正を繰り返すことが従業員を教育する機会となります。そして、起業家の考え方だけでなく、ビジネスにかける思いが徐々に伝わっていく機会になるはずです。このような啓発は一朝一夕にはできないものですが、事業コンセプトを一つの軸において日々の実務で指導すれば、徐々に堅固な組織にしていく助けとなると期待できます。