業務フローチャートとは、業務項目を明らかにして、その流れを整理した図です。この業務フローチャートによって、業務手順を明確にした上で業務全体を俯瞰できるようになり、実務レベルから経営判断まで多種多様な目的で活用できるようになります。

とても有効性が高いはずの業務フローチャートですが、現実には、それほど仕事の中に浸透しておらず、作成できる人もそれほど存在しておりません。社内に作成できる人材が存在すれば、業務フローチャートを活用して効率的に仕事が進んでいくはずなのですが、そのような機会を与えられることは少ないようです。

そして、業務フローチャートを作成する機会や活用する機会に恵まれた人が少ないため、その有効性に気付いていない人が多く、作成や運用におけるコスト面だけを見て”割の合わない仕事”と思う人が増えているように感じます。

業務フローチャートは、何故、普及しないのか?

ところで、IT業界の発展に伴って「フローチャート」に対する注目度は年々高まっているように感じます(仮に”システムフロー”と呼びます)。10年前では、ネット検索してもフローチャートに関する情報はごくわずかでしたが、今ではシステム開発用のフローチャートに関する情報も多く公開されるようになりました。

一方、業務フローチャートは、今も昔も同じく、WEB上で公開される情報はそれほど多くありません。また、ビジネス書もほとんど発売されていないように思います。この違いは、必要性という視点で説明できます。

システムフローはシステム設計のために使うため、システム開発における必要性が極めて高いのです。モノ作りに長けた日本人は、この必要性を素直に受け入れやすいのではないかと感じます。さらに、業界の発展と共にシステムフローを書く人は増えていくため、システムフローに対する需要が増加し、そのハウツーに対する市場価値が高まっていると想像できます。

しかし、業務フローチャートで描いたものを大きな視点で見れば、そこには業務の仕組みがあります。つまり、システムフローはシステムの仕組みを描き、業務フローチャートは業務の仕組みを描いているのです。それならば、会社組織の運用には業務の仕組みは必須であるため、業務フローチャートに対して必要性が高いと感じても不思議ではないのですが、そうはなりません。何故ならば、業務は細かな設計をしなくても人が柔軟に処理することができ、しかも、基本的には法的な要求がないからです。

従業員個人が柔軟に業務をこなして自分なりのやり方が固まれば、次第に業務の処理速度が向上していきます。さらに、あらゆる場面で臨機応変に対応できるようになって技術が習熟していきます。つまり、従業員それぞれに業務を任せても、その内に各自が仕組みを形成していくのです。これが、業務が属人化していくプロセスです。

一方で、業務の仕組みを業務フローチャートで設計しようとすれば、作成者には営業部門から管理部門まで相応の知識や経験が求められます。既存事業であれば、各部門の担当者から実際の業務手続をヒアリングして、そのヒアリング結果をまとめる人材が別途必要となります。そのようにして業務フローチャートを作成しても、既に一つの業務に対して複数パターンが生じていることが多いため、その標準化に膨大なコストを割くこととなります。

また、新規事業において業務フローチャートをしっかり運用するのであれば、まだ何も存在していない状態で誰かが全プロセス分を作成することとなり、さらに事業がスタートすると想定外の実務処理が湧いて出てくるため、膨大な業務フローチャートの改定に追われることになります。

これら既存事業と新規事業の話は、冒頭で書いた”作成や運用におけるコスト面”であり、このような生産性が低そうな取り組みをするよりも、各業務を属人化させてしまった方がその瞬間においては間違いなく低コストなのです。しかも、業務フローチャートを作成しないこと対する法的なペナルティがないため、作成する必要性を感じづらいのだと想像します。

ちなみに、例外的に、必ず業務フローチャートの作成が要求される場面が一つあります。それは株式公開(IPO)の審査です。この時は、売上プロセスや仕入プロセス等の業務フローチャートや内部統制フローチャートの提出が求められます。この時点で外部のコンサルティング企業に作成依頼すると何百万円以上の報酬を支払うこととなりますが、株式公開するためには”必要”であるため高額報酬を支払ってでも作成するのです。

このような理由で、業務フローチャートに対して必要性を感じる人が少ないため、いつまで経っても普及しないのではないか?と感じます。業務フローチャートの真価を知るには、実際に作成と運用をした成功体験が必要となるため、その有効性を理解するのは簡単ではありません。しかし、「業務フローチャートの有効性が、”作成や運用におけるコスト面”を上回るかもしれない」と一人でも多くの人に感じて頂きたいため、活用方法のノウハウに繋がる情報を公開したいと思います。